『子どもたちの階級闘争』の書評、ブレイディみかこ&息子について

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政治と託児所。なんとも奇妙な取り合わせである。これが今回ご紹介する『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(ブレイディみかこ著)の主要テーマとなる。

 

普段は同じ土壌であまり議論されない政治と託児所という新しい切り口に興味をもつ人もいれば、政治の話はちょっと敬遠気味の人もいるだろう。むしろ後者のほうが多いかもしれない。

 

だが、一切の心配は無用である。眠くなるようなむずかしい政治論争、しかも英国の政治についてあれこれ意見を述べるものではない。そんな堅苦しいものではなく、不謹慎かもしれないが笑える場面もたくさんある。なんといっても、著者自身が英国の託児所で働いている当事者なのだから、子どもたちの描き方が生き生きとして面白いのだ。

 

異国の託児所を切り口に、自国のポリティクスに思いをはせる──。異色だが、明日からものの見方が変わってしまう契機となるような一冊だ。

 

ブレイディみかこ氏の息子さんもちょっとした有名人のようなので、書評とともに少しばかりご紹介する。

 

第16回新潮ドキュメント賞受賞作!『子どもたちの階級闘争』の書評

では、まず子どもたちの階級闘争』の書評から書いていく。

 

舞台は英国。平均収入や失業率、疾病率が全国でも最低水準の地区にある無料託児所、それが著者ブレイディみかこ氏の職場である。そんな託児所をブレイディみかこ氏は「底辺託児所」と呼ぶ。

 

収入が低く、失業率の高い地区にどんな人たちが集まるかは、想像に難くない。英国には「チャヴ」という言葉があるそうだが、これは公営住宅地にたむろするガラの悪い若者たちを指す言葉である。ドラッグや窃盗、少女の妊娠などにより英国社会を荒廃させるものとして忌み嫌われるクラスである。英国の場合は生まれ育った地域によって英語の発音が異なるようだ。当然ながら、チャヴと呼ばれる若者たちは下層英語を話す。こうしたクラスの出身者は、同じ英国人からも差別を受けている。

 

こういう社会の底辺の実情というのは、実際にそこに身を置いている人に聞くか、そういう人を取材するか、何か問題や事件が起こらないとわたしたちの耳には入ってこない。だからこそ本書は貴重だといえる。

 

政治と託児所。この2つがどのように関連し合うのかを考え出すと面白い。いや、面白いといっては不謹慎かもしれない。なぜなら、英国の政権交代がもたらした緊縮財政政策が、底辺保育所を直撃し壊滅状態に追いやってしまったのだから。政治というものが、いかに実社会に影響を与えるのかを異国の実例をもとに目の当たりにすることになる。

 

では、日本ではどうなのか?このシンプルな疑問が、わたしたちの政治への興味を引き出してくれる。託児所という身近なわかりやすい実例を切り口として考えると、むずかしく思えた政治の話もとたんに自分事として感じられるようになる。

 

また、本書はもともとブレイディみかこ氏が、日々の職場での実体験をブログに綴っていたのを書籍化したものだ。だから、語り口は非常に軽妙でフレンドリーな調子なので、肩ひじ張らずに気軽に読める。

 

しかも、子どもたちの描写が生き生きとしていて、つい吹き出してしまう。怪獣のように元気いっぱいの子どもたちの姿は、英国も日本も同じだなと感じてしまう。

 

託児所からだってポリティクスを感じることはできる。このことを笑いと涙と怒りと喜びをまじえて表情豊かに語ってくれる本は、本書をおいて他にないだろう。まさに、著者の言葉どおり、ポリティクスは地べたに転がっているのだ。

 

「ブレイディみかこ」氏の経歴や息子について

著者のブレイディみかこ氏の経歴は、現在は英国・ブライトンに在住し、保育士であるかたわら、ライターやコラムニストとして執筆活動をしている。職場でもあるアンダークラスの無料託児所で起こった出来事を書き綴っていたブログをまとめたのが本書であり、第16回新潮ドキュメント賞を受賞している。

 

著書には、『花の命はノー・フューチャー』(ちくま文庫より2017年改題復刊)、『アナキズム・イン・ザ・UK──壊れた英国とパンク保育士奮闘記』、『ザ・レフト──UK左翼セレブ列伝』、『ヨーロッパ・コーリング──地べたからのポリティカル・レポート』、『THIS IS JAPAN ──英国保育士が見た日本』、『いまモリッシーを聴くということ』がある。雑誌『図書』で「女たちのテロル」を連載。

 

息子のケン・ブレイディ氏は、2014年の第9回ローマ国際映画祭に出品された菊地凛子主演のイタリア映画「Last Summer」で菊地凛子の息子役を演じている。息子のケン・ブレイディ氏は本書にも少し登場するが、底辺託児所卒園という経歴の持ち主。

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