みなさんは松下幸之助の『道をひらく』を読んだことはありますか。
パナソニック創業者である松下幸之助の言葉を記したいくつかの書籍のうち、最大のベストセラーですね。私自身、この本の著者が松下幸之助と知って、『道をひらく』を思い出しました。やはり多くの人に支持されているだけあって『道をひらく』はすばらしい内容です。あえて別の書籍を出版した理由はなんだろうと感じるところもありました。
この本は、『道をひらく』の愛読者の方にもお勧めできる内容でした。
「人生と仕事について知っておいて欲しいこと」の要約
松下幸之助の経歴
松下幸之助は「パナソニック」を1代で築き上げた、日本を代表する経営者です。とても有名ですね。異名として「経営の神様」と呼ばれるように、その思考や人生観は経営業界で高く評価されました。
晩年には、倫理教育を行うためPHP研究所を設立したり、政治家の育成を意図した松下政経塾を設立したりするなど、未来の日本を担う人材の育成に力を入れました。倫理教育の分野でも支持を得られるのは、人間観や人生観に才能があったからだと感じます。
本書は、現在も出版事業を中心に稼働しているPHP研究所が編集したものです。研究所に保管されている資料から編集されました。松下氏が創立当初考えていた「Peace and Happiness through Prosperity(物心両面の反映で平和と幸福を実現)」という精神のもと、活動は存続しています。
若者に向けた「人生と仕事について知っておいて欲しいこと」
本書以外の松下氏の著作は、経営者幹部向けの「社長になる前に知っておいて欲しいこと」と初中級リーダー向けの「リーダーになる前に知っておいて欲しいこと」などがあります。これらにつづいて、松下幸之助が若者に向けて発した言葉を中心に編集したものが本書で、非常に読みやすい内容になっています。
第1部では松下氏の人生観「人間として成長するために知っておいてほしいこと」が語られ、松下氏の人生観をもう一度知ることができる内容です。まさに「人間として」必要なことをまとめた章です。
一つ一つの項目には「タイトル」そして「解説」が紹介されていますが、本文はほぼ全てが松下氏の言葉そのまま掲載されています。一つ一つの言葉は講演会での内容やパナソニック社員に向けたもので、当時のリアリティがそのまま伝わってきます。
第2、3部では人生と仕事にフォーカスした新しい内容です。松下氏の著作を読んだことがある人はこの章から読み進めてもいいかもしれません。新たな内容が多く掲載されており、松下氏の仕事観を余すところなく知ることができます。
「人生と仕事について知っておいて欲しいこと」の書評や感想
この書で面白いのは、松下氏の運命観でしょう。松下氏は自身の人生観について「運命」という言葉をよく用います。
自分には自分に与えられた道がある。他人の道に心をうばわれ、思案にくれて立ちすくんでいても、道はすこしもひらけない。道をひらくためには、まず歩まねばならぬ。
引用(本文より)
これは「道をひらく」にも掲載された有名な言葉ですね。冒頭で改めて紹介されており、本書でも重要な思考です。
「運命観」ときいてみなさんはどう感じるでしょうか。時代にそぐわない言い方だと思う方もいるかもしれません。世の中に関する方法と結果が素早く得られる時代です。
この本ではそんな読者の方が納得できるように、運命論とともに「実体験」の言葉が多く語られています。例えば、戦時中どうあったのか、戦後の大きな出来事は何だったのかなど、時事的な出来事とともに語られることによって、運命観が「経験」に裏付けされていることをはっきりと感じることができます。
本書に新たに加えられた内容は「人生と仕事の章」です。読み進めていくと、タイトルに付けられた教訓以上の内容が、本文に含まれていることに気づくはずです。
なぜなら本書は「松下幸之助のそのままの言葉」であるから。語り手の口調や言葉の選び方からそのときの苦労や感動、喜びを感じることができます。
そういった感情の機微こそが、松下氏の著作を深みのあるものにしているのではないでしょうか。
目次を見て必要な情報だけを読んでいくのもアリですが、ぜひ実践して欲しいのは何度か読み返すこと。当時の社会情勢などを合わせて言葉を深く理解しようとすることで、本当の意味で松下氏が語りかけてくるのではないでしょうか。
わりと楽に通読できますので、読書に時間をかけられない若者にも最適です。愛読書にすれば時代を超えた価値に気づくでしょう。
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