「ビジネス抜きでインドにハマった」
今回ご紹介する本『インド・シフト』(武鑓行雄著)を読み終えたときの率直な感想です。
これまでプライベートでも仕事でもインドと特別な接点はありませんでした。本書を手に取ったのは、純粋に知見を広げるための興味からです。それがこれほど自分の興味を引きつけ虜にするなど思いもしませんでした。
おそらくインドは、世界中どこを探しても他に類を見ないような方法で発展しつつあります。そしてその発展はインドのみならず、世界中の国々をイノベーションの渦の中に巻き込んでいくでしょう。
インドと関わりがないからと言って読まずにいてはもったいない。読み物としても非常に面白いので、ぜひ最後まで読んでください。
『インド・シフト』の書評・感想
まずは『インド・シフト』の書評からです。
著者の武鑓行雄氏は、インドのIT業界に約7年間身を置き、現地の空気を実際に体験してきた人物です。日本からはなかなか見えてこないインドの現状や動向、ひいては世界におけるインドの立ち位置の変化などが実に興味深く描かれています。
インドは貧富の差が大きく、多くの地域でいまだ社会インフラが整備されていないことやIT産業が隆興していることなどはよく知られています。インドの人材が優秀であることも有名な話です。本書を読めば、それらが事実であることがわかります。
しかし、インドの実態を知るにつけ、極めて稀有な進化を遂げていることに気づきます。たとえば、固定電話や水洗トイレより先にスマートフォンが普及していたり、ATMが整備されるより先にキャッシュレス化が進行していたりします。その発展段階は先進国がたどったそれとはまったく異なる、インド独自のイノベーションが起きていると言えるでしょう。
いまやインドIT業界の技術レベルはシリコンバレーに匹敵するまでに向上し、世界のトップ企業から戦略拠点として認知されるようになっています。インドを押さえずして最先端のITトレンドについていくことなど不可能だと思われるほど、その重要性は高まっているのです。
本書には、インドがこれまで発展してきた経緯や背景、その存在感を大きくしてきた成功要因になどについて詳しく記述されています。インドを知るには本書以上に適切なものはないと言えるでしょう。ぜひ『インド・シフト』を一読してみてください。
次に『インド・シフト』の感想です。
本書の読みどころの一つは、なんといってもインドで実際に起こっているイノベーションを知ることにあります。水洗トイレより先にスマートフォンが普及するというのは、先進国からするとちょっと考えられませんよね。
他にもインドのイノベーションがいくつか紹介されているのですが、事例だけ聞くとどれも素晴らしい内容です。それらがすべて新興国インドで起こっていることを考えると、非常に驚かされるとともに、インドをどのように理解すればいいのかわからなくなります。本当に摩訶不思議な国です。だからこそ、インドという国に強く惹きつけられ、その未来が楽しみに感じてしまうのだと思います。
『インド・シフト』の要約
『インド・シフト』の内容を簡単に要約してご紹介しましょう。
本書は、世界の名だたるグローバル企業がインド、特に「バンガロール」の地に開発拠点を置き、戦略上いかに重要視しているかについて書かれた本です。十数年前にオフショア開発拠点として発展したことから始まり、その後どのような経緯をたどって存在感を増していったのかが詳述されています。技術面や人材育成、労働コスト面などから、インドIT業界の成功要因を分析します。
また、インドのスタートアップ企業の状況や人材育成、キャリアパス、インド発のイノベーションが紹介されています。中でもインドのイノベーションには目を見張るものがたくさんあります。たとえば、世界最高レベルの心臓手術がたった2000ドルで受けられるインドの病院経営や指紋と虹彩で行うID認証の普及などがあります。最先端のIT技術を活用したイノベーションが数多く生まれています。
こうしたインドの世界最先端を行くIT技術の活用事例があますところなく紹介されると同時に、日本企業がその重要性を過小評価しすぎている点にも触れ、解決策についても助言がなされています。
武鑓行雄氏の経歴
武鑓行雄(たけやり・ゆきお)氏の経歴を簡単にご紹介しますと、2008年10月から約7年間、ソニー・インディア・ソフトウェア・センターの責任者としてバンガロールに赴任していました。帰国後もインドIT業界団体NASSCOMの日本委員会の委員長を務めるなど、インドIT業界と日本企業の連携促進に向けた活動を継続しています。
2014年1月には、電子書籍『激変するインドIT業界 バンガロールにいれば世界の動きがよく見える』(カドカワ・ミニッツブック)が出版されています。
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