今回書評を書くのは『平均思考は捨てなさい 〜出る杭を伸ばす個の科学』(トッド・ローズ著)です。著書のトッド・ローズは、ハーバード教育大学院で「個性学」を研究する心理学者。本書では「平均」にまつわる歴史的な背景やその概念の変遷、研究内容や具体的な事例を紹介するとともに、平均にもとづいた考え方や価値観がいかに人間の潜在能力を損なうかということを教えてくれます。
「平均」というのは、学生時代のテストの平均点をはじめとして、わたしたちの実生活のなかに深く浸透した概念です。健康診断の結果表を見ても、検査項目ごとに正常と考えられる平均的な値が示されていて、わたしたちはその数値を自分の数値と比較して一喜一憂します。会社の入社面接のときに受ける性格検査では、外交的なタイプか内向的なタイプかを診断されたり、適した職務内容が示されることもあります。ですが、はたしてその結果はわたしたちの個性を正しく示しているでしょうか。
本書を読めば、平均や個性の考え方について案外わかっていなかったことに気づくはずです。
そして、きっと明日から人を見る目が変わり、本当の自分を理解する手助けにもなることでしょう。
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【書評】平均思考は捨てなさい 〜出る杭を伸ばす個の科学〜
本書のタイトルは『平均思考は捨てなさい 〜出る杭を伸ばす個の科学』です。タイトルから類推するに、人は個性こそが大事なのだと一般論に終始した内容かと思いきや、予想外に「平均」にまつわる驚くべき事実が明かされます。
「平均的な人間」という表現をすることがありますが、平均の歴史を紐解くと、もともとそれは数学的な事実を表す概念ではなく、社会問題を解決するために発明された概念だったようです。1800年代に天文学者のアドルフ・ケトレーが、社会を管理する学問をつくれないものかと思案して、天文学の平均法を人間に当てはめたのがきっかけとなり、「平均人」という考え方が生み出されました。
「平均人」の考え方とは、宇宙には人間の理想像と呼べる雛形があり、平均値の集合体である平均的な人間こそが完璧なのだと考えます。つまり、わたしたち一人一人はその平均値から多かれ少なかれズレた存在であり、欠点のあるコピーということです。
現代の認識とはずいぶん異なりますね。ですが、平均値からズレた人間は欠点をもつコピーだという考え方は、平均値からマイナス方向に大きくズレてしまうことは欠点だという現在の価値観に通じるものがあるかもしれません。
平均こそが理想で個人はエラーだと考える「平均人」の考え方は、のちに「ランク」の考え方へと変わっていきます。学校でも会社でもさまざまな場面においてランク付けされますね。成績表しかり、志望大学の合格ランクしかり、人事評価でもランク付けがされてボーナスや給与の金額が決まったりします。
このように平均との比較が重要視される社会にわたしたちは暮らしていますが、個性というのは、多面的であり、コンテクストによって変化するものであり、誰一人として同じものはありません。つまり、平均的な人間など存在しないということです。このことが理解できると、人生における価値観が変わります。誰一人として同じ人はいないということは、他人に合わせて同じような人生を送る必要はないということです。
この書評を読んで少しでも自分の個性に興味をもってもらえたら、ぜひ本書を手にとってください。きっとあなたの人生を好転させるきっかけとなるでしょう。
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【要約・まとめ】平均思考は捨てなさい 〜出る杭を伸ばす個の科学〜
『平均思考は捨てなさい 〜出る杭を伸ばす個の科学』の内容について要約し、要点をまとめます。
1800年代において時代の先端を行く学問といえば、天文学でした。ベルギーの天文学者だったアドルフ・ケトレーは、苦心して手に入れた観測所所長のポストに就任する直前に、革命の反乱軍に観測所を占拠されてしまいます。これをきっかけとして、なんとか社会を管理できないだろうかと考えるようになったケトレーは、天文学で用いられていた平均法を人間に応用することを思いつきます。
人間の性質においても平均法の考え方を適用し、宇宙には平均的な人間という完璧な存在がいて、個人は平均からズレた欠点をもつコピーだと考えられました。これを「平均人」といいます。平均こそが正常であり、個人のほうが間違っているとされ、空軍ではパイロットの平均的な体型に合わせてコックピットが設計されました。
この後、ケトレーの弟子だったフランシス・ゴルトン卿が平均人の考え方に異を唱えて、「ランク」の概念を取り込みました。平均より上のランクは有能者、下のランクは低能者といった具合に階級分けをしたのです。
平均の概念を重要な組織原則にしたのが、フレデリック・ウィンスロー・テイラーです。工業経済へと移行しつつあったアメリカでは、製造の現場における効率化が最重要課題であり、さまざまな作業の平均値が計算されました。いわゆる標準化です。
こうして社会に平均の概念が浸透してきましたが、著者は、人は平均との比較だけでは評価できるものではないと主張します。そこで個性に関する3つの原理を紹介しています。それが「バラツキの原理」「コンテクストの原理」「迂回路の原理」です。
そして、企業において個性を重視した取組みの事例や教育現場における提言などが紹介されています。
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