【書評・要約】『フォルクスワーゲンの闇』(ジャック・ユーイング著)

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名の知れた企業による不正──ニュースでそのような情報が流れて来たとき、驚きとともに「またか」という本音が見え隠れする人も少なくないのではないでしょうか。

 

今回書評要約を書くのは、『フォルクスワーゲンの闇』(ジャック・ユーイング著)です。本書のタイトルや副題「世界制覇の野望が招いた自動車帝国の陥穽」から明らかなとおり、フォルクスワーゲンというブランド化された有名自動車メーカーの零落について暴いた本です。ですが、自動車業界に興味がないからといってみすみす逃してしまってはもったいない!フォルクスワーゲンの闇を貫くテーマは、無理に企業目標を達成させようという心理的重圧が企業文化をどのように歪曲させるかという普遍的なものだからです。企業全体だけでなく、部門運営においても参考になるので、ぜひご覧ください。

 

【書評】『フォルクスワーゲンの闇』

フォルクスワーゲンの闇』の書評ですが、本書は表面的なニュース報道の補足ではありません。次の要約にも書いたとおり、フォルクスワーゲンの成り立ちまでさかのぼり、歴代の経営者たちと権力の攻防が描かれ、ポルシェ一族とフォルクスワーゲンとの関わりがつまびらかにされています。そうした前提や時代背景、フォルクスワーゲンと関わりをもった人々の性格や考え方などがどのようにして凋落へと道を踏み外してしまったのかがわかる、いわば「ブラック企業のつくり方」の実録です。自動車業界に関わりがない人や普段自動車を運転しない人をも引き込んでしまうようなドキュメンタリー的要素があります。

 

また、不正を起こしてしまう企業あるいは部門は、何も自動車業界に限ったことではありません。不正のきっかけは違えど、そこには普遍的な問題があるはずです。フォルクスワーゲンが陥った落とし穴について高い視点から俯瞰して見ることで、自社や自部門において戒めとすることができる要素が浮き彫りとなるでしょう。

 

【要約】『フォルクスワーゲンの闇』

続いて『フォルクスワーゲンの闇』の要約をご紹介します。フォルクスワーゲンの歴史は、1937年までさかのぼります。ナチス労働戦線が「国民車」としてフォルクスワーゲンをつくるために会社を設立したところから物語は始まります。

 

本書の巻頭には、フェルディナント・ポルシェがヒトラーたちに「国民車」の模型を見せている写真が掲載されています。他にも、1944年当時の自動車工場の内部写真や物語の主要な登場人物たちの写真など、たくさんの写真が挿入されています。

 

国民車、つまりフォルクスワーゲンの製造計画は、当初プロパガンダ活動として始まりました。ドイツ労働戦線がこの計画を監督するようになり、ヒトラーのお気に入りのエンジニアだったフェルディナント・ポルシェが新車の設計を任されます。ポルシェはフォルクスワーゲン工場を設立しますが、既存の自動車メーカーがこれに反発し妨害を受けてしまいます。それでも目標達成に向ける情熱と激しい気性で工場稼働に邁進します。

 

フォルクスワーゲンの経営のカギを握るポルシェの孫、フェルディナント・ピエヒは、幼少の頃のエピソードが紹介されています。彼は5歳の頃からポルシェのオフィスによく出入りしていました。多くのエンジニアたちに混じってたくさんの設計図を覗き見たり、極秘会議の内容を盗み聞きしたりしていたのです。さらには、一族が所有していたKdFワーゲンの助手席でシフトレバーを操作し、運転技術を学んだといいます。

 

フォルクスワーゲンの舵取りを行なった歴代最高経営責任者の詳細な描写、権力の攻防、ポルシェ一族とフォルクスワーゲンの関係性が、御曹司ピエヒの野心とともにリアルに描き出されます。そしてアウディが米国の排ガス試験をパスできなかったことが、ピエヒにとって最初のハードルでした。その後、ディーゼルエンジンの開発が始まり、ディーゼルエンジンが排出する汚染物質への対処と米国・欧州の排ガス基準との戦いに苦悩することになります。この苦悩がいずれ排ガス試験での不正につながり、こうした小さな積み重ねが企業文化となり、社員の思考と行動を狂わせていきました。フォルクスワーゲンが落ちていくプロセスは、ぜひ本書『フォルクスワーゲンの闇』を開いてみてください。

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